紫微斗数

『般若経』の陀羅尼◎解題◎

紀元前三世紀にインドを統一し、仏教を外護し普及したのが阿育王である。それ以後、仏教が大衆化されるにつれ、無名の菩薩たちが、釈尊の述べられた正法は万人のものである、万人が証得できるものであるとして、大乗の名を冠して、壮大な経典を編み出した。仏説という形をとり、正覚体験を核とし、民衆の知っている神話や譬喩を豊かに取り入れ、作劇の要素を用い、登場人物や大道具を多くした、文学の香気の高い巨篇である。旅の法師が街頭で演じ語ったものもある。
 般若、法華、涅槃、華厳、浄土がその主なるもので、般若はその先頭に立った。密教以前の大乗経典であるが、前三者にはそれぞれ陀羅尼(ダラニ)がある。般若はプラジュニャーの音写で、叡智である。今までの体験、感情、偏見という旧見の吾我をなくし、無差別に、清浄に、己をむなしくして、あるがままに徹見することである。主観の極に般若をおき、客観の極に実相をおき、この二片対立を統一するということではない。般若は空であり、実体がない。真如は般若に一致する。
 紀元前一世紀頃より三世紀にかけて次第に経典が増大された。十六字綴二行詩を一小品として、七百小品、五千小品、八千小品、一万小品、二万五千大品、十万大品、二十万大品と増加した。その間にまた『般若心経』のような要約本ができた。二十万般若経典の集大成が、七世紀の玄奘訳『大般若波羅蜜多経』(略称『大般若』)六百巻(大正蔵経五・六・七巻)である。この巻五七七の別行本は、五世紀にすでに鳩摩羅什の訳した『金剛般若波羅蜜多経』(大正蔵経八巻、略称『金剛経』)に当たる。『摩訶般若波羅蜜多心経』(同上、略して『心経』)は玄奘訳である。般若波羅蜜多は古い訳では智度、明度ともいう。『大般若』『金剛経』『心経』にはそれぞれ陀羅尼がある。真言宗、天台宗、禅宗に多く用いられる。
(本文は真言陀羅尼 坂内龍雄著 平河出版社より)

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